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食品加工学研究室の研究テーマ

機能性食品粉末の創製

 近年,生物から分離・精製された生理活性物質(生理活性脂質,生理活性蛋白質,抗菌香気物質)を機能性食品素材として用いる研究が多く行われているが,熱,光,酸素などに対して不安定なものが多い.これらを消費者が使いやすく,かつ安定して使用できる形態としたものが粉末化である.しかし,生理活性物質の粉末化や保存中の安定性に関する研究は,数少なく極めて定性的なものが多い.我々の研究室では,液体脂質,抗菌・香気物質,生理活性蛋白質のモデル酵素などを噴霧乾燥法により粉末化する場合の「乾燥中に安定な粉末化手法開発」と「乾燥粉末の保存中の特性変化」について,工学モデルの構築を目指して研究を行っている.具体的には,(1)噴霧乾燥粉末の形態特性とフレーバーの徐放,(2)共焦点レーザー顕微鏡によるフレーバー徐放解析,(3)トレハロース、マンニトールを用いた酵素の粉末化,(4)シクロデキストリンによる気体の包接粉末化,(5)シクロデキストリンによる抗菌性香気物質の粉末化,(6)多孔性結晶糖などのテーマを,機能性食品粉末の創製と食品粉末の緩和現象解析の視点から化学工学,反応工学の手法を用いて取り組んでいる.研究方針として,食品企業からの技術相談や共同研究を通して生まれた現実的な課題を拾い上げ,これらを最新の研究課題とミックスしながらフレーバー,機能性生理活性物質の粉末化に関わる問題について検討している.


(1) 噴霧乾燥粉法を用いた機能性食品粉末の作製
 噴霧乾燥法により乳化フレーバー粉末、機能性オイル粉末を作製する際の噴霧条件、賦形剤が噴霧乾燥粉末の形態と特質に及ぼす影響を定量化、および新規機能性食品粉末のの開発と噴霧乾燥粉末の安定性に関する研究を実施している。たとえば、抗体のような生理活性蛋白質を粉末化する場合、従来は凍結乾燥が用いられていたが噴霧乾燥法を用いて安価で活性の高い噴霧乾燥抗体蛋白質を作製するための低温での噴霧乾燥条件の探索、噴霧ノズルの開発を行っている。

powder

(2) 定速湿度増加法による噴霧乾燥粉末からのフレーバー徐放挙動
 粉末香料は、噴霧乾燥前後の香料成分の残存率と同時に,粉末からのフレーバーの徐放や自動酸化等の安定性が重要となっている。フレーバーの徐放速度は温度のみならず、湿度の影響を強く受けることが指摘されているが、詳細な研究はおこなわれていない。本研究は,粉末香料からのフレーバー徐放速度を簡便に測定する方法として、定速湿度増加法を提案すると共に、粉末からのリモネン徐放速度に与える諸因子の影響を定量化するための実験手法の開発を実施している。

(3) 新規結晶糖創製手法の開発と応用
 従来の糖質の微細な粒子形態としては、粉糖、顆粒糖などがあるが、これらはいずれも大きな粒子を粉砕により微細化したものである。これに対して、新たな結晶構造体を作製する手法、すなわち結晶変換という結晶再構築により微細な構造体を作製する方法を提案した。非晶質糖質をエタノール中で脱水することにより新規な構造体の糖質を創製する手法は、ビルドアップ型の結晶構造の再構成というナノ構造の構築手法として非常にユニークな手法であり、特異な構造と特質をもった糖質を創製できる。
crystal

(4) 環状多糖シクロデキストリンへの機能性物質の包接機構の解析と応用
 シクロデキストリン(CD)と各種ゲスト物質の包接体形成手法(噴霧乾燥法、混練法、溶液法、圧力反応器法)についての検討、包接体安定性およびゲスト物質の徐放機構について解析を実施している。ゲスト物質として気体であるエチレンレセプターの阻害剤1-メチルシクロプロペン(1-MCP) 、二酸化炭素、ヨウ素を用いたCDへの包接体を作製し、それら包接体からの徐放特性について検討した。現在、天然香気性物質の包接粉末を作製し、その抗菌特性について検討するとともに各種包装紙への応用について検討している。

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研究課題

(1)粉末包括した機能性物質の安定性を評価する手法の開発
 噴霧乾燥法で包括された機能性物質の安定性を物理化学・食品科学的手法と微視的組織学的手法を融合して解析する新しい実験装置および手法を開発することを目的に研究を行っている。。機能性物質の安定性について、粉末構造、特に粉末内の機能性物質の分布、粉末の吸湿速度との関係を、示差走査熱量計、粉末X線回折装置、共焦点レーザー顕微鏡等を用いて検討する。そのためには、粉末の構造を制御する必要があり、現在、パルススプレイ方式による粒子径の均一な乾燥粉末を作製する手法について検討している。粒子径の均一な粉末と制御された温度、湿度の空気を接触させ、湿度の直線変化やステップ変化、温度の各種動的変化に対応する粉末の凝集応答(コラップス応答)、機能性物質の酸化安定性等を測定することにより、粉末内の機能性物質の安定性をより簡便に測定できる手法を開発する。

(2)ビルドアップ型機能性食品粉末の設計
 エタノール中で非晶質糖質を脱水することにより、新規な構造を有する糖質を再構成結晶化するという、ビルドアップ型の結晶ナノ構造構築のユニークな方法である。本法は非晶質糖質からの脱水過程での水の拡散と結晶成長速度に基づく方法であり、新たな糖質構造を与えるものである。この機構を詳細に検討することより糖質に新たな構造的機能を賦与できると考えている。